記憶の片隅に





下校時間ぎりぎりまで作業をした。




外はすっかり暗くなっている。




俺は里衣の家の方から遠回りして帰るコトにした。





『いいのに、わざわざ。遠いっしょ?』





『俺は、別に大丈夫だよ』





二人で並んで歩きながら帰った。



他愛もない話をしながら歩いていると、あっという間に里衣の家の前の通りに出た。





『…じゃ。ここで平気だよ』





里衣は右手を挙げた。




俺はそれには答えずに、里衣をまっすぐに見た。




『…凌央?』





『里衣…、俺が里衣の過去を塗り替える。

兄貴なんか忘れられるくらい、俺が里衣を大事にする。

だから、俺と付き合ってほしい』




里衣はビックリしたように目を見開いた。




そして、ちゃんと俺の目を見た。




『…ありがと。でも、今はまだ無理かもしれない。

あたしも、凌央を好きかもしれないって思った。

凌央なら、好きになれるかもって。


けど、今付き合っても…

凌央を傷つけちゃうかもしれない。

あたしの曖昧さが凌央に辛い思いさせちゃうかもしれない。


だから…

待っててほしい。

ちゃんと凌央を好きになるまで。

それまで、あたしを好きでいてほしい。


ダメかな…』





強いな、と思った。



ちゃんと、自分の意思を持ってる。



俺は何のためらいもなく頷いた。




『待ってるよ。

ずっと待ってる』




里衣は俺の答えを確認すると、また明日ね、と笑って角を曲がっていった。