『…ごめんね、平気』
女の子は、笑顔を作って立ち上がった。
でも、俺は見てしまった。
彼女の腕にあった、赤黒いあざを。
『その腕…』
彼女はとっさに反対の手で腕を隠した。
『…ちょっと、ぶつけたの』
それが嘘だと言うことは、すぐに分かった。
そして、彼女が噂の磯島里衣だということも。
『何かあったの?』
どうしても放っておけなかったんだ。
彼女は笑っているのに、瞳はどこか不安げで。
幼いながらにも何かあることくらい分かった。
『…話せるようなコトじゃないから…』
『でも、誰かに話さなきゃ辛いでしょ…?』
『ホントに、初めて話した人に、話せるようなコトじゃないの…』
『そっか。話せないなら、ここにいなよ。
泣いてもいいよ。
俺も、まだここにいるから』
彼女は少し、ビックリしたような顔をした。
そして、何分間か静かに泣いていた。
泣き止むと、小さな声で言ったんだ。
『名前、聞いてもいい…?』

