記憶の片隅に





『…あたし、もう戻るね』




里衣は無理に笑顔を作ると、屋上から出ていった。




傷ついた表情に胸が痛む。




付き合ってる時は、絶対に里衣を不安にさせたくないし、傷つけたくないと思ってた。




だから、いつも大切にしてきたし、真剣に向き合ってた。





でも、別れてからの俺は?




里衣を傷つけてしかいない。



無理に笑顔を作らせて、里衣の傷を深くえぐってばかり。




やっぱり、こんな俺じゃいけない。



今の俺じゃ、里衣を大切にできない。




それが分かるから…。



ちゃんと分かってるから。




俺は、里衣の背中を追いかけなかった。




ただ、扉の向こうに消えてく里衣をずっと、ずっと見てた。