記憶の片隅に





『…里衣、ホントに忘れちゃったんだな』




病院の屋上に来た俺らはフェンスに寄りかかりながら話した。




『……何か、俺が切ねぇよ…。

何で…凌央のコトだけ忘れんだよ。

あんなに…二人とも幸せそうだったのに…。


…里衣だって…やっと、幸せになれたのに…』





『言うな…。今、その話は出さなくていぃだろ』





『…わりぃ』




遥斗は軽く頭を下げた。




里衣の過去には、人よりも暗いものがあった。




俺と付き合うようになったころから、やっと笑える様になったんだ。





『…悔しくねぇ?想い出とか全部消されてさ…』





『悔しいよ。すっげぇ悔しい。

けど、思い出すか思い出さないかはあいつ次第なんだ。


俺が何かしても、里衣に負担かけるだけだと思う。


それなら…


俺には里衣を信じるコトしかできない』






『凌央…。
お前ってさ、やっぱ強いな』





『…何だよ、いきなり』





『俺なら、自分自身がどうかなりそうだよ。

記憶を消されても、愛せる自信とか、多分ないと思う。

凌央は、すげぇよ』





遥斗はそう言うけれど、俺だって不安で不安でしょうがない。




里衣が俺を思い出す保証なんてこれっぽっちもない。




あいつの記憶から消されたら…


そんなの想像しただけで、怖くてたまらないんだ。