記憶の片隅に





屋上のさびついたドアを開けた瞬間、爽やかな風が俺の茶髪を揺らした。




眩しくて、目がちゃんと開かない。




それでも、俺は屋上の端に人の影を見つけた。





だんだんと目が慣れてくる。




ずっと見ていると、人影がいきなりしゃがみこんだ。




俺は具合が悪くなったのかと思い、影に駆け寄っていった。




人影の少し手前。




俺はその影が誰なのか、確信付いた。





『…里衣、大丈夫か?』





里衣はゆっくりと顔を上げて、俺を見上げた。




俺は里衣のその顔を見て、後悔した。




里衣の顔は涙でびしょびしょで、思わず抱きしめてしまいそうだった。




里衣のすべてをまだ愛しいと思ってしまえるから。