―トントン




ドアをノックする音がする。



あたしは、返事をしなかった。





『里衣、入るわよ』




ママの声がしてからすぐ、ドアが開いた。




『里衣…』




ママはベッドまで来ると、横に腰をおろした。





『…ママ。

何で…誰かを傷つけると自分まで痛くなるの…?

あたし、事故って記憶なくしてから、大切な人、いっぱい傷つけた。

もう、ヤダ…。

もう……』





『里衣、それは、自分も傷ついてるから。

知らない間に、誰かを傷つけて、知らない間に、自分も傷ついてるの。


里衣は記憶を失って、凌央くんを傷つけたと思ってるかもしれない。

けど、大切だった人を忘れた里衣も充分傷ついてる。


里衣は、そんなに傷ついてる心で色んな物を抱えすぎてる。


辛いなら、苦しいなら、無理しなくていいのよ。

我慢なんて必要ないの』





ママはそう言って、あたしを抱きしめた。