記憶の片隅に





『…里衣、具合どうだ!?』




遥斗が里衣の病室に入るなり、明るい声を出した。




『はるくん…!』




里衣は昔から遥斗のコトをはるくんと呼んでいた。




『元気そうじゃん?』




『随分、楽になったかな』




『早く、学校来れるといぃな!』



『うん、ありがと…。二人は…友だち…なの?』




里衣は俺と遥斗を交互に見た。




『俺と里衣は、凌央をきっかけに友だちになったんだよ』





『…え…?』





『俺と凌央は昔っからの大親友。
中二から里衣と凌央が付き合いだして、俺と里衣も友だちになったの。

……分かんない?』





里衣は困ったように、顔をしかめた。





『…ごめん。分かんない…。


凌央とのコトを忘れちゃったのは申し訳なく思う。

あたしも、早く思い出して、モヤモヤした感じから脱け出したい。

けど…、分からないの。

怖いの…。

あたしが知らないあたしを皆が知ってる。

一番大切なコトがあたしの頭から消されてる。


そのコトについて、周りにいろいろ言われても…

あたし、混乱するだけで…。


凌央と…好き合ってたっていう気持ちが今のあたしには…

理解できないの…


ごめん……。




ちょっと、一人にしてほしい……』





里衣は自分の両手に顔を伏せた。



俺と遥斗は静かに病室を出た。