記憶の片隅に





俺は、ここ何日か考えている。




里衣が俺を忘れてる今…



あいつにとって俺は必要な存在じゃないんだ。



でも、俺にとって里衣は必要な存在で…


かけがえのない人。




それは変わらない。





『はぁ……』





『何、ため息ついてんだよ』





授業が終わったコトにも気付かず、机に顔をふせていた俺に後ろから声がかかった。




『遥斗…』




声をかけてきたのは親友の遥斗だった。





『里衣のコト?手術も成功して後遺症もないんだろ?』





遥斗は、俺らのコトを初めから知っていて応援してくれてる。




でも、記憶をなくしたコトについて、話せずにいた。





『ちょっと、屋上に行かねぇ?』




教室ではさすがに話せないと思って、俺は遥斗と屋上に上った。






『里衣、忘れちまったんだ』






『…は!?』






『俺のコトだけ、忘れてんだ…』





『…嘘だろ。何で…!』





『あいつの脳の中で、大きな存在のコトとか、大切なコトだけがすっぱりぬけちゃってる。


俺との出会いも、付き合ってたコトも、想い出も…。

っていうか、俺の存在自体を覚えてねぇんだよ』





『……は…? そんなコトって…ありかよ…』





遥斗は、切なそうに目を伏せた。