花を咲かせるには、あともう少し。
欠けている月が丸くなるころだな。


そんなことを思っていたら、オイラを呼ぶ声がした。


久しぶりに、カヨちゃんがオイラに会いに来てくれた。

もう、カヨちゃんにオイラは姿は見えない。
もう、カヨちゃんにオイラの声は届かない。

姿を見ることも、声を聞くこともできなくなったあの日。


カヨちゃん泣きながら、オイラの前から姿を消した。


‐会いたい
‐話しがしたい
‐どうして、桜太は神様なの
‐人間だったらよかったのに
‐ずっと、一緒にいたい


そんなことを言って、泣いて泣いて泣いて泣いて。
カヨちゃんは姿を消した。

オイラの姿が見えて。
オイラの声が聞けて。

そんな子どもは、今までにも何人かいたけれど。
カヨちゃんほど、長くオイラと友たちでいてくれた人間はいなかった。

だから、オイラも、ずいぶんと落ち込んだ。
めったなことでは神社を空けないカワチのじいさんまで、心配して訪ねてくるほどに、オイラは落ち込んでいた。


それから、何回も、春が来た。
カヨちゃんの来ない春がきた。


久しぶりに会いに来てくれたカヨちゃんは、きれいな女の人になっていた。
最後に会ったときは、また少し、少女っぽさがあったけれど。
すっかり、きれいな女の人になっていた。




「桜太。いる?」

‐ここにいるよ。

蕾を丸く膨らませて桜の木を見上げながら、カヨちゃんはオイラにそう声をかけてきた。