それに会う事に対して、畏怖する気持ちは一切なかった。

自分の問いたい内容への返答次第では、由香里はこの世から去ろうと思っていたからだ。


自分を何度も殴る母親に、最初は愛されたかった。
だから、勉強もして、お手伝いもした。

だけど、由香里に笑いかけることなんて一度もなかった。


それから、由香里はもう諦めたのだ。


子供が、そうやって絶望してしまったら、未来などないに等しい。
テレビで中学生などの自殺のニュースを見る度。

由香里はこう思う。


“解放されたんだな”と。



ギシギシと軋む洋館の中を由香里は静かに進んで行く。

埃だらけの洋館。
それがここに人が暫く出入りしてない事を示していた。


(一番奥…、あった。ここかな)


突き当たりの扉。どっしりと構えている門みたいな扉。
そこを力いっぱい由香里は押した。

ギィって音と共に開く扉。
自分がギリギリ入る隙間だけ開けて、中へと進む。