その男はそびえ立つ洋館を見ると、小さくぽつりと呟いた。


「ここか…」


男は廃れた洋館に草木を掻きわけて進んでいく。
ぎぃっと扉が軋む音を立てながら男は中に足を踏み入れた。

埃っぽい館内。
顔を手で覆いながら男は持ってきた懐中電灯をつける。

照らし出された箇所を見ながら、男は用心深く中へ進んでいく。
もしかしたら床とかが腐っていて、いつ抜けるかわからない。

そんな不安を抱きながら進む。



男の名前は旭と言った。
歳は三十になったばかり。
愛する妻も子供もいる。
会社でも、この春課長に昇進する事が出来た。


そんな旭がここの鏡の噂を聞いたのはつい最近だった。


何も不自由ない暮らしをしている様に見えた旭だったが…。
もう、かれこれ五年ほど前から拭いきれない疑問があった。


その答えを聞きたくて、旭はここにわざわざ訪れたのだ。


奥へ奥へと進むと、それらしき扉を見つけて、旭は息を飲んだ。