俺は彼女の名前を聞いたことがない

その後は、彼女の行きたいと言った所に向かった。



急がないと混むという理由で目的地まで休むことなく走った。



それを十数回と繰り返した。



おそらく全てのアトラクションは一通り巡っただろう。



現在時刻5時30分。


閉館時刻は6時。


辺りはだんだんと人気を無くし、さきほどまでの賑わいも無くなり、スタッフも黙々と落ちているゴミを拾ったり片付けをしている。



遊園地の中央にある中央広場の真ん中で、俺と彼女は目の前にある「またお越しくださいますか?」と大きく書かれた看板を見つめていた。



無言のまま、最初に口を開けたのは彼女だった。


「…もう、帰るんだね」



彼女は今までとは違う、悲しくてそれでいて穏やかな表情を浮かべていた。


「…蓮君とのデート、楽しかったよ」


彼女は笑顔で振り向いた。


俺はその笑顔にドキッとした。

つい頬を赤らめてぷいっとそっぽを向いてしまう。


そして再びの沈黙。


聞こえるのは鳥の囀り、そして上空を飛ぶ飛行機の音だこが聞こえる。



「…ねえ蓮君。こっち向いて」


一瞬、更にドキッとした。

今にも彼女まで心音が聞こえるぐらい心臓がバクバクしている。



「・・・」


彼女はただただ、俺が振り返るのを待っている。

彼女を待たせるのは好きじゃないので、恥ずかしいけど、ゆっくりと、彼女な方へと振り向く。