「……なお、いつ帰ってくるかわからないよ」

「はい」

「何十年後かも知らないし」

「はい。それでも、あたしは待ち続けます」

「そ。じゃあ、これ渡しとく」

箕原さんはあたしの手に、1つの鍵を置いた。

「鍵……?」

「なおの家の鍵」

「ぇえっ?! あ、あたし」

「いいから。あたしがもらったんだけど、なおを待つのはもうあたしの役目じゃないもの。なおが帰ってくるまで、そこを大切にしてよ。あたしとなおとお姉ちゃんの、大事な場所だから」

「そんな大事な場所、あたし管理できませんっ」

「あたしがあんたに管理して欲しいの」

「……」

「あたしはもう、誰にも縋らない。なおにだって甘えたくない。だから、その鍵はあんたに渡そうと思って。お願いできる?」

「……はい、わかりました」

あたしは受け取った鍵をギュッと握って、鞄の中にしまった。

「……なお、あんたに背中押してもらったんだと思う」

「え……?」

「あたしも、押してもらった」

箕原、さん……?

首を傾げてると、箕原さんは小さく呟くように言った。




「だから、ありがと」




思いもしなかった言葉で、あたしは思わず目を丸くした。