去年、母さんと父さんは遺産を僅かにしてこの世を去った。
まだ幼い亜樹と成人してない私は、東京で社会に出たばかりの兄さんと暮らし始めた。
収入は、叶多君の給料と僅かな私のバイト代だけ。
亜樹の保育園代は馬鹿みたいな金額だし、私の授業料も…………。
「………ごめんなさい。」
分かっていたけど、ひょっとしたら、ひょっとしたら…優しい叶多君なら頷いてくれるんじゃないかと甘えてた。
「………ごめんな。俺の給料がもう少し良かったら…。」
「良いよ、別に。ごめんね、我が儘言って。私も高校出たら働くし、亜樹にはちゃんと大学行って貰いたいし。」
本当は、私も大学行きたいんだけどね。
けど、そんな大金が無いのは分かってる。
叶多君が何か言いたげに口を開いたけど、それを聞く前に私の携帯が鳴った。
見ると、親友の円香からだった。
≪今から、あそこ行こう。≫
メールの文面を見て、私は自然と笑みが零れた。
「円香と遊んでくる!!」
「ああ、行ってこい。」
叶多君が小さく笑った。
亜樹の頭を撫でて、私はリビングを飛び出した。
