「乗りまーす!待って!乗りまーす!」

息を切らせて受付に駆け寄る満里。

受付の女性が満里の持つ黒いヒールを怪訝そうに伺う。

「あ、お名前は?」

女性の視線に気付き、慌ててヒールを履くと、満里は両足を揃え、背筋を伸ばし、胸を張って高らかに応えた。

「温海です。温海 満里です」

豪華な風貌とは不釣合いな荒々しい警笛を鳴らし、船はゆっくりと港を離れていった。