坂田たかひろの家には、やっぱりみんなが集まっていた。グアム帰りのやっちゃんは、日に焼けていたけれど、短く切られた新しい髪形がちょっぴりヘンだった。

やっちゃんは小柄な男の子で、とてもまつ毛が長い。みんなから、よくそう言われるんだって。半ズボンから飛び出た枝のような足。ひざかぶがぽっこりととびでている。でも走るのはとても速かった。



私が来たのもおかまいなしに、みんなスマブラに没頭している。スマブラのことは分からない。うちは、親の方針でゲーム禁止なのだ。



軽い音楽と、画面の中でちょこまか動き回るキャラクター。栗山さんは女の子なのにゲームがうまい。コントローラーを巧みに操って、男子たちと肩をならべていた。

栗山さんは足もはやいし、ポケモンごっこも一緒にやってくれる。多分、一番仲がいい子だと思う。でも、こないだ栗山さんに、
「私と栗山さんって、親友?」と聞いてみたら、
「そういうのは聞かないし言わないんだよ」って言われた。
栗山さんは栗色の長い髪に、すっととおった鼻筋をしていた。ママが、「フランス人形さんみたいな子ね」って言ってた。その後に、
「でもマリちゃんもママに似て世界でいちばんかわいいわ」と付け足した。
世界でいちばんかわいくなるには、栗山さんみたいに髪をのばさなくちゃ。でも、パパは長い髪が嫌いみたいで、すぐにおかっぱ頭に切られてしまう。

一学期、いつものごとく、また髪を切られてべそをかきながら学校に行った日、みんな私のことを「ちびまる子ちゃん」といってからかった。
私をからかわなかったのは、栗山さんとやっちゃんだけだった。
放課後になっても浮かない顔をした私を、栗山さんととなりの席だったやっちゃんはつきっきりではげましてくれたのだ。
栗山さんは短い髪だって可愛い、うちは髪を切りたくても似合わないからって切らせてもらえないと言ってくれて、やっちゃんはダブっているポケモンのカードをくれた。
その後、私たちは三人でやっちゃんの家であそんだ。スマブラとか、なんだかエイリアンみたいな敵を銃でうつゲームをやって、私が持ってきたポケモンの人形でポケモンごっこをして遊んだ。
やっちゃんとポケモンごっこをしたのは、その日が最初で最後だった。それ以降は、せがんでも、せがんでも絶対にポケモンごっこはしてくれない。