阿久はにやりとした。

「佐々木くん、夢でも見たんじゃないの?」

夢?
そうだったら、どんなにいいかとずっと・・・

蛍の席に目を向ける。

机に添えられた花。

「うわあああ!」

哲平は教室を飛び出した。

「おかしいわね、成績は芳しくないけど、授業をサボったりするような子ではなかったのに」

「きっとお友達が亡くなって混乱しているのでは? そっとしておいてあげましょう」

考えこむ担任に、阿久がそっと耳元で囁く。

1組。悠月と日向子。

「今日春風体調悪いって。
あの子が学校休むなんて、小学校のインフルエンザ以来だわ」

「そうなんだ・・・」

悠月はちらっと熊を横目にする。

「あたしも、あの先生怖い・・・悪魔なんだよ」

「なに言ってるの。あんな格好良い人が悪魔なわけないでしょ」

日向子が、悠月の肩を叩いて笑う。

「あ、こっち見た。やーん、素敵ね! あ、そうだ宿題見てもらっちゃおう」

熊の周りにできた女子の輪の中に、消えていく日向子。

悠月はどうしても熊の視線が怖いので、教室を駆け出してトイレに向かった。