* * *
ふたりがハイヤーで自宅まで送ってもらったのは、もう夕方。
健介に見えなくなるまで手を振る。
だが哲平は、まだ悠月を帰すわけにはいかなかった。
まだプレゼントのテディベアを渡していないのだ。
改まって言葉をかけるのは無駄に緊張する。
「あれー」
と、哲平の気も知らず、悠月は玄関前に弾んでいった。扉の前になにかある。
「わあ・・・可愛い!」
チョッキを着た白うさぎのぬいぐるみがくっついた、置き時計。
差出人のないバースデーカードが添えられていた。君が生まれた特別な日に。
悠月は白うさぎを抱き上げ、ぎゅっとする。風が駆ける。
哲平はその場でかたまっていた。
またかぶった。もう渡せないテディベア。
「誰からだろうー? お母さんに聞いたら知ってるかなあ」
悠月がうさぎを抱いたまま軽やかに戻ってくる。



