隣のオアシス


 夏の盛りだというのに、夜は随分と冷え込む。

 砂埃や汚染物質から身を守るために、普段から肌は露出させない恰好をしているが、それでも夜の空気は冷たく感じた。

 空を見上げると、防塵マスクに遮られた狭い空が映る。皮肉なことに、災厄を体験したあとのほうが、景色を美しいと思えるから不思議だ。星ひとつ見たってそうだ。街の明かりの隅で、身を縮めていたあの星々と同じものとは思えないほど、今は輝いている。夜の主役は間違いなく星や月なのだろう。晴れて雲ひとつない夜空に浮かぶ月も、漆黒の天鵞絨に銀砂をぶちまけたような星空も、そうだそうだと頷かんばかりに輝いている。

 いくらか歩いて、三番地の者が見つけたという池の近くに差しかかった頃だ。
 風の音もなく、色即是空の世をふらふらと歩いていたような、おぼろげな感覚が、ふと消えた。

 微かにだが、何かが聞こえる。

 声だ。誰かがひそひそと秘密ごとを囁く声に似ている。だが、辺りを見渡しても、人の姿はなく、余計に不気味さが増した。

 仕方なしに足を進めると、ついに声は大きくなっていった。同時に、初め感じていた訝しい気配はすっかり消えた。

 女性の声だ。透き通る水を思い起こさせる声だ。それでいて力強さもある。なんて曲だろうか。初めて聞く曲で、外国の言葉で歌っていた。