隣のオアシス


「アキラ。あんたは?」

 自分も砂に文字を書くべきか逡巡したが、言葉は通じる。ならば問題ないだろう。そう思って訊ねると、彼女は声の出ない口で「アキラ」と呟いたのがわかった。俺の視線を感じたのか、彼女は慌てて砂場に文字を書いた。

 ――私はユリ。アキラは水汲みに来たの?

「ああ、俺らの住むところでは身体が不自由になったやつらが多くてな。まともに動ける男は俺くらいなんだ――」

 言いながら、俺は防塵マスクをしたままユリと接していたことにようやく気づく。

 災厄後、滅多に降らなくなった雨のせいで、空気は乾燥し常に砂埃が舞う。さらに、倒壊したビルや工場などから有害物質が空気中を漂っているせいで、鼻や口をさらしたまま過ごすことはできない。失明した者もいれば、最悪の場合命を失くしてしまった者すらいる。それでも身体の弱い老人や幼子なんかは、日々不調を訴える。そんな彼らに、俺は力仕事をすることで助けるしかできない。医者もいなければ、いたとしても医療がない。せいぜい傷を負ったら止血するくらいの処置しかできない現在、一度身体に不自由を覚えてしまえば、あとは自分がどれくらい生きていられるか想像するしかないのだという。

 しかし彼女――ユリは防塵マスクをしていないどころか、肌を露出している。

 首も腕も足も……。


「マスクはしないのか?」

 ――うん。別にそんなに長生きしたいと思わないし。

 すらすらと躊躇いなく書いていく文字を読み、アキラは苦笑した。