吸い取られそうな眼だ。
一番に受けた印象がそれだった。瞬きの少ない大きな目は、いつも他人を疑って濁ってしまった俺の目とは違いとても純粋で、なぜかそんな自分の負の思いすらも吸い取ってくれるような気がした。疑いも憂いも恐れすらもない彼女の瞳は、ただ不思議がっていた。なぜ自分以外の人間がここにいるのか、言葉で尋ねられてはいないが、目が語っていた。
水筒に水を汲み終えると、俺は彼女が腰かけている傍まで歩いていった。汲んだばかりの水が、たぷんと水筒の中で揺れる。
その間も彼女は何も話さない。視線が、俺の歩みの後を追う。
「ごめん、邪魔しちゃったかな」
彼女の隣に腰を下ろし、横目で尋ねると彼女は首を横に振り笑顔になった。
印象的な笑顔だ。
目を細めて、白い歯をこぼしながら笑う姿はどこか勝気な少年のよう。花のように可憐で儚い雰囲気をまとう女性を今まで好んできた自分が、なぜかこの女性の笑顔を見た瞬間に胸が高鳴った。動揺を隠そうと必死に次の言葉を探す。
「何してたんだ?」
訊かずとも、歌を歌っていたとしか答えられないようなことを訊ねてしまうあたり、よほど狼狽えていたのだろう。
しかし彼女は答えない。
訝しげに思った俺に、彼女は自分の喉を指差し、何かしゃべるような仕草をとる。だが、声は出ていない。
彼女は少し困ったように眉を下げて微笑した。やがて何か思いついたのか、陰った表情がぱっと明るくなる。彼女は自分の腰かけていた場所をずらし、俺との間の距離を広め、砂場を指差す。俺の視線が彼女の顔から指へと移ると、彼女は細い指をすべらせ何か文字を書きはじめた。



