「夏が来れば思い出す」って歌があったな。
僕もこの珊瑚礁の絵葉書を見ると思い 出す。
中学生の頃、家族で行った山あいの温泉。
一日中温泉に入るなんて退屈で僕は外で遊んだ。
スマートボールや射的、都会っ子には珍しくて。
「よしっ!」
小さい箱を落とすと
「上手いね」
後ろから声が。
振り向くと同い年位の女の子が笑っていた。
「はい、お兄ちゃん」
おばちゃんに景品を渡されて
「あげるよ」
咄嗟にその子に。
「えっ?」
「これ女の子用みたいだから」
「ありがとう」
箱を受け取り
「私もやろうかな」
お金を払いピストルを構える。
パン!
「あ、外れた」
「こうするんだよ」
構え方や狙い方を教え
パン!
「当たった!」
ピョンピョン跳びはね喜んでいる。
「はい、お姉ちゃん」
彼女が落としたのはチョコ
「はい」
「うん?」
「半分どうぞ。これ貰ったお礼」
「サンキュー」
チョコを食べながら再び射的を。
「君も旅行で来たの」
「うん。あ、もう戻らないと」
腕時計に目を落として
「今日はありがとう。楽しかった」
「……」
「これもありがとう。じゃあ」
立ち去ろうとするのを
「あ、明日…会えるかな?それとも」
「一時にここに来るから」
彼女は恥ずかしそうに走り去った。
その日、旅館に戻ってから『何かいい ことあった?』なんて母親に聞かれた り。
あれが僕の初恋だった。
この絵葉書は家に戻って数日後に送られてきたもの。
彼女の地元の海だそうだ。
「あら、どうしたんですか?笑ったりして」
「うん?いやなんでもない」
「フフ またこれですか」
絵葉書の上に十字架のネックレスを
「毎年夏が来ると思い出すんだよ」
このネックレスはあの日の景品
そして、それを受け取ってくれた女の子は今は僕の奥さん。
そう、あの夏の日に最初で最後の恋をした。
あれはもう何十年前のことか。
でもあの日の出逢いは忘れることはなく
夏が来れば思い出す…
*END*
【800文字で三題噺:珊瑚礁・十字架・射的】



