話すことはひとつもない。
けど、彼に知ってもらいたいことはなぜかたくさんある。
「あたしの、つまらない独り言として聞いてください」
「……うん」
彼はケーキを食べ続ける。
きっと、あたしが話しやすいように。
「さっきも言ったようにあたしには彼氏がいました。結婚も考えていたけど、少しまえに交通事故で死んでしまって……」
不思議と涙は出なかった。
亮也を失って、何度も泣いてきたからかな。
「彼が亡くなってから、あたしのお腹に赤ちゃんがいることに気づいたんです」
「あ、赤ちゃん?」
「はい。母には反対されたけど産むことにしたんです。そして、ひとりで立派に育てるって」

