なのに、 俺は一つも母さんの悩みに気づいてやれなかった。 フワリ… 近くで母さんの香りがした。優しい香りは昔の記憶と同じままだった。 「母さん……手話、できない。」 俺の腰に回っている腕が強くなる。 漸く母さんが手を離し、話し始めた。 『母さんね、一度近所の奥さん達の和に入って行ったの。』