久しぶりに会った仁は全く変わっていなかった。
美しく気高い獣のようだ。
死を覚悟し、目を瞑ったアタシを強く抱き締める。
『美夜、愛してる。オレだけのものだ』
嬉しくて涙が溢れ、言葉が出ない。
そして大きく膨らんだお腹をさすり言った。
『オレ達のために組織を潰す。
必ず帰ってくるから、待っていて欲しい』
アタシはコクンと頷いた。
明朝、仁は日本に帰国した。
予定日を2週間過ぎ、アタシは元気な男の子を産んだ。
名前は幸也(ユキヤ)。
仁が帰国前に決めてくれた名前だ。
幸せに也る。
仁の願いが込められた名前だった。
アタシは待った。
待ち続けた。
だけど一向に連絡はない。
幸也を育てるために、アタシは仕事を始めた。
雇い主はマフィア。
殺し屋として雇われた。
アタシには暗殺者としての技術しかない。
生きていくためには仕方がなかった。
一年、二年と月日だけが過ぎていく。
イタリアの情熱的な男の口説き文句もアタシの心に届くことはなかった。
“アタシには仁と幸也だけ”
ずっと仁の事だけを待ち続けた。
子供は言葉を覚えるのが早い。
『僕のお父さんは何処にいるの?』
淋しがる幸也にアタシは微笑む。
『良い子にしてたらすぐに帰ってくるわ』
口癖のように言い聞かせた。
今日、幸也は3歳になる。
仕事が終わり自宅に帰れば、ささやかなパーティーをする予定。
プレゼントには大好きなミニカーとミニバラの鉢植えを買うつもりだ。
幸也は男の子なのに、ミニバラがとても好きなのだ。
行きつけの花屋に寄り、注文していた鉢を受け取る。
ふと店の奥に目をやると、大きな花束を抱えた男性が見えた。
その後ろ姿。
忘れる筈がない。
鼻の奥がツンとする。
『 仁!! 』
叫ぶとゆっくり振り返る。
振り返ったその顔は驚きと嬉しさが混同したような、初めて見る表情だった。
『ただいま、美夜!』
仁に駆け寄り抱き締める。
今日は幸也の誕生日。
きっと素敵なパーティーになるだろう。

