朝起きると、今まで見てきた天井と違うことに気付いた。

いつもよりも、ずっと綺麗。真っ白な天井。


そして私は、次に嗅覚で異変に気づく。

いつもよりも、ずっと良い匂い。多分、トーストの少し甘い感じの。



五感の内二つを使って、私はやっと、いままでの朝とは違うことに気づく。

そうだ、ここは、私が16年間住んできたあの家なんかじゃない。


ここは、凪の家なんだ。




鈍い私の感覚は、そのことに気づくと、ふと緊張が和らぐ。

そして、私の瞳からは、何故か生温い液体が出てくる。

安心してしまうと、私の瞳はすぐに潤む。



だから、こういう時は、彼を呼ぶ。

「凪ぃ、おはよう~。」


すると彼は、碧いエプロンを身に纏ったまま、私の所に来てくれた。


「おはよう、有。…またなの?涙。」

「だって、仕様がないじゃない。勝手に出てくるんだから…。」

「また可愛げのないこと言って。ほら、今拭いたげるから。」


この優しい男のシャツの裾を濡らしてしまう度に、私は少し安心する。

私には、涙を拭ってくれる人がいるのだと。

そう実感した時に、私の瞳はいつもの潤いの分量を取り戻す。


「お腹、減った。朝っぱらからこんな良い匂い漂わせないでよ。」

「無茶苦茶言うなあ…。ほら、早く起きなよ。朝ご飯、もうすぐ出来るから。」

「…解った。」


彼は起きたばかりで機嫌の悪い私を微笑ましく見詰めた後、朝食の仕上げをすべく、キッチンに向かってしまった。

朝っぱらから、忙しい人。でも、楽しそうだな。

彼との朝の挨拶も済んだ所で、私の体もちょっとずつ覚めてきた様なので、ベッドから剥がした。朝、このちょっとした温もりのあるベッドから離れるのは、少しばかり、辛いのだ。


でも、今にも鳴りそうなお腹を満たすべく、私は体を起こす。

17歳、高校二年生の、ごく普通の朝。