真夜中の東京は、昼間みたいに明るい。

酔っぱらいはうるせーし、勧誘もウゼェ。

下手に手を出せばギャーギャー喚き散らして鬱陶しく騒ぐ。


何だこいつら、何の為の生き物だ。


冷めた目で見てれば、女がお礼を言ってくる。

別にお前が絡まれていたから助けた訳じゃねぇのに、何勘違いしてんだ?



「あ、あの…サンキュー…」

「Rumoroso」

「え、え?」

「Si prega di tornare a casa」



混乱する女に吐き捨てる。

俺はアメリカ人じゃねーよ、下手くそな英語で話し掛けんな。


「あーいたいた、勝手に車から出んなよ、探したぞ」

「チッ…」


樫原が缶コーヒーを二つ持って走ってくる。

俺は明後日の方向を向いてその声を無視した。


「全く…お前は何でそうマイペース……お?誰よ、この子」

「知るか」

「え!?日本語…」


驚いた様子の女を尻目に、俺は車に戻る。

後ろで樫原が喚いているが、それも無視した。


「ったく、本当に言うこと聞かねーヤローだ」

「あの…」

「ん?おぉ、悪いねお嬢さん。あいつ不器用なガイジンさんなんだ」

「アメリカ人じゃ…」

「イタリア人なんだけどね、各国の言葉がぺらぺらなのよ」

「…日本語、話せるんじゃん…」

「あー…そうね、恥ずかしいね…」