カチッとガスを点ける音がする。 一通りの作業を終えて、鍋が沸騰するまで手の空いた咲花は多喜也の方へ振り返る。 咲花の目には、涙が流れていた。 「文芸時代は……ゴミ箱に捨てられていたんです」 多喜也は咲花をじっと見つめる。 ただ、ただただ真剣に聞いてやらなければいけない場面だと、真っ直ぐに向き合おうとする。