そしてそこにはビッシリと字が埋め尽くされていた。

男は吸い込まれる様に、ゆっくりと、まるで蒸気機関車が発車する時の様に初めは緩やかに、しかし時間に比例してその速度は増していき、終いには貪る様に原稿用紙の文字を追い始める。

途端時間が止まって、男は喫茶店から全く別世界の城の中へと飛ばされた。

原稿用紙を見ている筈なのに、視界は文字も周りの景色も全く捉えない。

そこは喫茶店ではなくファンタジーの城の中、男は26歳にもなって就職しない無職ではなく、暗殺者という役目を持ってその世界に立っていた。