何かが聞こえた。 取り出し口に手を入れようとした所で多喜也の動きが止まる。 そしてぴゅうと静かに、しかし冷たい風が多喜也の頬に吹き付けた。 「……空耳、か?」 多喜也は息を呑んだ。 きっとタバコが落ちてきた時の音が人の声に聞こえたに違いない。 そう思って心を平静に保とうとすると再び風が吹いて目の前の柳の木が闇の中で揺れた。