真夜中のキス[短編]



あの時は、あんなに幸せだったのに。

翼があたしのことを、
“特別”だと思ってくれるだけで、それだけで良かったはずだった。




あの時までは、あんなに近くにいたはずなのに…


今では電話で時々話すことが出来るくらいで…もう、ほとんど会う事すら出来ない。


いつもいつもすれ違って、
あたしは翼の背中を見ているだけ。



“彼氏”なのに―――こんなにも、遠い。




「……っ…!」




思わず胸がギュッとなって、
あたしは急いで服の裾で涙を拭った。




「…っふ…うえ…」




ねえ、あたしだって寂しいんだよ。
分かってたけど…辛いんだよ。


けど…
翼のこと、大好きだから。
翼のことが、大切だから。



だからね…?

……あたし、決めたよ。
翼の夢を、ちゃんと応援する。


だから翼…
今日でちゃんと、さよならするから。