現代日本において、人を殺すことは悪であり裁かれるべき罪だ。
そしてそんなこと、普通に生きていればするはずがないし関わることも滅多にない。
平和ぼけした国。それが私が生まれ生きていた国。


 世界は残酷なまでに平等だ。
それに気がついたのは、本当に何もかも終わった時だった。

私は幸せだった。
普通であることが幸せだった。
家族がいて友人がいて生活がある。それは何にも代えがたい、私にとってこれ以上ない幸せだった。



 すべてを失って亡くして、自ら手放して。
何もかも終わったその日、気がつけば私は桜の木の下にいた。
家族と毎年花見した、我家の庭にある立派な桜の木。
ぼんやりと見上げる。
家族を失って、出来やしないとわかりながらも取り戻そうとした。
そんな全てを見ていただろう桜の木。


「おわっちゃった・・・全部。」



 心にあるのはただただ持て余す空虚。
空っぽになってしまった。
涙も流れずただ見上げていたその時、強い風が吹いた。




『こんにちは。』



「・・・・は?」


 どこからともなく、女の子の声が聞こえた。



『こんにちは、私の騎士さん。』


 騎士って、ずいぶん頓珍漢なことを言うなとぼんやりしたままの頭で思った。
異世界、聖女、守護騎士・・・よくわからない単語が並んだその声の説明。
けれど彼女はどうも、私に守ってほしいらしい。

 あぁ、そうか。私はまだ必要なのか。



「君が私の、生きる目的になってくれるの?」



『・・・えぇ、貴女が目的をなしに生きていけるその日まで。』




 まさに、聖女だなと思った。
彼女は、わたしを縛り付けようとはせず、生きる目的になってくれた。
もう誰も居ないと思っていた。
わたしの生きる目的。


 あぁ、アリア。アリア。
わたしはあなたに救われたんだ。
アリア、私はあなたを護るよ。

 だから安心して。
あなたは幸せそうに笑っていてよ、アリア。









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「おはよう、真宵。」


「・・・おはよう。」


「今日は珍しくお寝坊さんね、いつもは必ず私より早く起きているのに。」



 にこやかに笑う聖女サマ。
そうやって、曇りなく笑っていてくれるだけで、わたしは救われるんだよ。



「懐かしい夢を見ていたんだ。」




 絶対、もう二度と失うなんてしないから。