夜。
虫も寝静まる真夜中、煩わしいのは明るすぎる満月の光だけだ。



「ごめん・・・ごめんなさい、真宵・・・。」



「いいんだ。アリアが謝ることなんて、何一つないんだよ。」



 時折、聖女サマはとても不安定になる。
ベッドの上でわたしにしがみついて泣いているのは聖女サマではなく、まだ未熟な少女・・・ただのアリアだ。
頭を撫でて抱き寄せる。

 世界の平和のために祈る。
平和の象徴、それが聖女。



 彼女が祈れば乾ききった大地には雨が降り注ぐ。
彼女が祈れば、荒れた海はたちまち静まる。
神に選ばれ、人の信仰を一心に集める聖女。
そんな重いものを背負って、凛とした姿勢で群衆の前に出るのは並大抵の人ではできないんだろう。


けれど、それらを強いられて、それ以外に道が無ければどうしようもない。




「どう、してっ・・・ぅ・・・ったし、なんだろ、うって・・・なんで・・・」


「そうだね・・・。」


「かみさまなんて・・・信じて、ないしっ・・・・・なんっで・・・。」


 理不尽。
押し込んだ感情が溢れてどうしようもない。


 そんなことを言えるのは、守護騎士だけだ。
わたしは、アリアにとっての拠り所。
守ってあげないと・・・そう、初めてアリアを見たときに思った。
揺れる感情の中、とても不安定に立っている。
そんなぎりぎりな状態の彼女を、どうしても放ってはおけなかった。


「アリア」


「なに・・・?」


「もう寝よう。今日は一緒に寝てあげる、だから怖い夢も見ないよ。」


 わたしはアリアに救われた。
だから今度は、わたしがアリアを守ろう。


 桜の木の下で出会った日のことを思い出して、静かに目を閉じた。