「魔術士殿。」
あぁこの男は本当に、私を苛立たせるのが好きだな。
自分の目が冷えきっているのが解る。物騒な気配を出しているのも自覚がある。
ピンと空気を張り詰めさせて、笑みも消えた。
「それは私、そして聖女様への侮辱と取りますが、よろしいでしょうか?」
私は人は殺さない。
けれど痛めつけることくらい難ではないんだ。
魔術士なんて軟弱な奴は簡単に叩き潰せる。
けどこんな状況でも、シュリは楽しげに口元を歪めるだけ。
紺碧の瞳には、好奇心が揺らめいている。
・・・・何がそんなに愉しいのだろうかこのキチガイは。
「冗談だよ、じょーだん。そんな怖い顔しないでよ。」
「・・・。」
うっぜぇ。
私が暴言を吐けないのをいいコトにコイツからかってやがる。
心のなかで舌打ちしながら、扉へ向き合った。
軽くノックをし、返事を聞く前に開ける。
「アリア様、そろそろお時間です。神殿へお戻りください。」
「あっ、もうそんな時間なのね。えぇ、わかったわ。
王子、それでは私はこれで・・・。」
「・・・あぁ、また。」
ちなみに、守護騎士以外は聖女サマの名前を呼んではいけないことになっている。
普段私はアリアのことを聖女サマと呼んでいるが、今名前で呼んだのは王子に対するあてつけだ。
アリアを神殿に送り届け、すぐに神殿から出た。
なんでも私のみで管理官のところに来て欲しいらしい。
いつもはアリアとセットなのに、珍しいなと思った。
「やぁ守護騎士殿。」
「・・・わざわざ待っていたのですか。」
ご苦労なことだ。全くもって有難迷惑というやつです。
「なんでも僕とペアで任務に行くらしいよ。」
「・・・・・・・・そうですか。」
最悪だ。
口をついて出ようとした悪態を必死で抑える。
なんとか絞り出した返答は何とも低い声だった。
「まぁそういうこと。今の管理官からの伝言だから、もう部屋に戻っていいよ。」
へぇそうですか。
それはまたなんというか、聞かなかったことにしたい。