僕の視界に映るのは隆くんのズボン。
片足が宙に浮いて、もう片方の足がバランスを崩して膝を折る。
一気に重力に従った僕の体は硬いコンクリートの地面へと引き寄せられる。
鈍い音と共に勢いよく尻餅をついた。
「ぃい゙っ!!!!」
あまりの痛さに「痛い」もまともに言えない。
急な激痛に顔を歪めていると、聞き覚えのある声が降ってきた。
もう二度と、聞きたくなかった声が。
「よぉ鈴木ィ、同じクラスだな。ちょー楽しみだわ、ハハッ」
さっき僕の左足を引っ掛けたと思われる足を揺らしながら、いつもみたいに人を見下したような言葉を垂れ流す。
その声が、眼が、存在が、僕には全部トラウマだった。
尻餅をついたまま体が震えだす。
僕は今どんな顔をしてるのか気になるくらいに相手の顔は愉快そうに歪められていた。
――――バチッ
僕の後ろに立っていた隆くんの方から何か小さな音がした。
少し振り向くとそこには隆くんの左手。
「ぇ……?」
思わず目を見開いた。
隆くんの手の甲から、ありえないことに少量の電流が放電されていたから。
電流を帯びた手はバチバチと音をたてながら拳を形作る。
その拳をゆっくりと持ち上げる隆くんの眼は、僕を転ばせた相手を捉えて離さなかった。
その強すぎる眼光に恐怖すら感じたその時、隆くんの拳が勢いよく放たれた。
―――ガッ!!!!
僕を見下ろしていた奴が、僕の横で殴られた頬を両手で押さえて倒れこむ。
そんな光景がどこか非現実的な気がして未だに尻餅をついたまま呆然と見ていた。
すると、「ほら立ち」と言って隆くんが手を差し伸べてきた。
一瞬、さっき見た電流を放つ拳と今差し伸べられている掌が重なって見える。
「ぁ……あり、がと…」
明らかに怯えた声と恐る恐る伸ばされた僕の手に、隆くんが少し寂しそうな顔をした。