「ちょっと待たんかいボケェ!!!!」
―――――え…?
いきなり現れた勇者に驚いているのは僕だけじゃないだろう。
現に僕をいじめていた6年生たちは焦っている。
「だっ、誰だお前!!」
「鈴木の友達か!?」
「鈴木ィ? 誰やよぉ知らんけど、弱いもんいじめたらあかんやろ!」
僕の名前に首を傾げながらも堂々と正義を説く関西弁な男の子は、まぁやたら強かった。
涙の膜が張った眼で見ていた所為かもしれないが、まるで落ちていく夕日の光を全身に集めているように輝いて見えた。
「いたいよぉおお!!!!!」
「おかーさぁあああん!!!」
「おととい来やがれぇ!」
6年生はさっきまでの僕以上に泣き叫びながら走って逃げていった。
その声と重なるようにして聞こえたのは、最近の小学生には聞かない台詞。
「おととい…?」
「あっ、大丈夫か自分? これな…付いとった泥は落としたんやけど、その……」
こちらに振り向いてから言いにくそうに差し出された筆箱とその中身は、お世辞にも綺麗とは言えなかったが、その心遣いがなにより嬉しかった。
「ぁ、ありがと…」
「あっええんよ別に! それより名前教えてくれへん?」
差し出されたものを受け取って、俯きがちに精一杯の感謝を述べると、相手の表情がぱあっと明るくなる。
「俺はな、水瀬 隆(ミナセ リュウ)」
「僕…鈴木 凛太(スズキ リンタ)」
「りんた!!よろしくな!」
「ぅ、うんっ」
がっしりと力強く握られた手が頼もしくて、僕もしっかり握り返した。
―――これが僕らの始まりだった