丁度いいバスの車内の温度に思わずウトウトとしていたあたしは幼い頃の夢を見ていた。

今となっては曖昧だけど、でもなぜかあの懐かしくも辛く苦い記憶だったということだけは胸の中で疼いては消えなかった。



『次は――羽ヶ島橋前』

アナウンスの声と共に覚醒させていく。

目を擦り、腰を上げて、停留ボタンを押す。

バスに揺られながら窓の外を見ると、一面海に囲まれた一島が見えてきた。

――《バルスベスタースクール》か……。どんな学校なんだろう……。


手元にあるA4サイズの封筒の中から一通の真っ白な封書を取り出す。

印が押された蜜蝋で封をされている一通の手紙。この手紙は《プラチナレター》と呼ばれ、

あたしにと届いたそれは《バルスベスタースクール》――通称バベル――の入学許可書だった。

全国から優秀な学生のみばかりを集めているっていう半ば都市伝説化した噂の名門の超マンモス校。

一島丸ごと、建設された巨大学園都市。幼稚舎から大学院まであり、選び抜かれた生徒・教員関係者合わせて約1万8000人おり、様々な学科の校舎や、広大な土地を収容し、なおかつテーマパークやデパートなどの娯楽施設や、生徒の寮までをも完備している。

学生はすべて学園内にある寮で暮らし、学費と食費は完全免除。

しかも、卒業後は世界屈指の大企業HNISグループへの就職だって夢じゃない。

そんなすごい学園がどうしてあたしなんかに入学を許可したんだろう……?

成績は――ごく普通。運動神経だって特別にいい方ではない。むしろ少し苦手だ。

自慢できる特殊技能もこれと言って良い程特になし。強いてあげるならだけど、料理が人並程度くらいできるというくらい。

本当に自分なんかが入学してもいいのか? 疑問に思う。

はぁ……とため息が出る。

凡人のあたしになぜ? やっぱり何かの間違いなのではないだろうか?

もう一度ため息が出てしまった。

転校が決まって日が浅く、心の準備が出来てないおまけに心残りもあるにはある。


「父さん……大丈夫かなぁ……」



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35時間ほど前に遡る。


バンっと玄関のドアが突然勢いよく開ける音にあたしは驚きもせず、

キッチンで夕飯を作っている手を止め、玄関の方へと向かった。


何故、驚かないのかというと、そんなことをする奴は1人しかいないからだ。


「おかえり、父さん。毎回言ってんだけど、玄関は静かに開け締めしてくれる」

笑顔で言うあたしに父さんは話を聞かず、自分の話をする。


「やあやあ、娘よ~。愛しのDaddyがただいま帰ったよ」

と、無駄に発音が良く(認めたくないけど)、どこかセリフ染みた古臭い歓迎の言葉とともに父さんはあたしに抱きついてきた。


いつの時代のセリフなんだ?と突っ込みたい。

しかも、愛しのって…。

というか、人の話を聞けよ!って言いたいが

この人に何を言っても無駄なことだとすでに理解しているあたしなのであえて言わない。

言うのすら面倒。




「はいはい」

と父親の言葉に軽く受け流す。

「んで、今回はどこに行ってきたの?」

「今回は!コンゴだよ」

「どこよ!! そこ」

と思わず、ツッコんでしまった。


「ここさ」

どこからともなく、地図帳を出し、コンゴと言う場所を指で指した。

どこから取り出してきたんだよ…と呟く僕だが、父さんには聞こえてない。


えっと…コンゴ……っと、

父さんが指でさしたところを見ると


あった!


マジであったんだな…。

地図には中部アフリカに位置しているところにあった。


正式名称、コンゴ民主共和国。

というか、そんなところに何しに行ったのっ!!?