「私さ、ここから出た事なくてさ。
だからどっか遠くの田舎に行ってみたいんだよね」

「…遠くって例えばどこ」

「決めてない。けど、北とか」

「何それ」

ざっくり過ぎるだろ、それはいくらなんでも。

「行きたい場所があるとかじゃないの?」

「そういうわけじゃない。でも、ここじゃない場所も見ておきたいんだよね」

「はあ…、そうなのかね」

「新幹線乗ろう、新幹線」

「そんな金ないよ」

「ああ、そうか…」

いくらなんでも、新幹線に乗る往復の切符代金なんて持っていない。
つうか、そこまで予想してないし、こないだ貰ったお小遣いしか持ってきていない。


しゅんとした顔を見せる藤井さん。
どうにかしてあげたいけど、こればかりはどうしようもない。




「…本当に窮屈だね」

「え?」

「なんか、生きてるって事が」


藤井さんが急に漏らした言葉に俺は首を傾げる。