それに俺はホッとしながら、観覧車が地上につくまで他愛ない話を繰り返した。


観覧車を降りて、俺の顔を覗きこむと藤井さんは言う。

「今日もありがとう」

「いや、全然」

それに答えながら、俺達は並んで歩く。
こんな時間帯だ。
観覧車の周りにはカップルしかいない。

…俺達も周りからそう思われているのだろうか。


ふと、そう思った。


「明日、最初の時と同じぐらいの時間でいいかな」

「うん、わかった」

「じゃあ、また明日ね」

「送らなくていいの?」

「え?」

「いや、こんな時間だし。危ないかなって」

「え。あ、えと…いい。いい!平気!大丈夫!!」

「そ、そう?」

藤井さんは大慌てで俺の誘いを拒否した。
そんなに頑なに拒否しなくてもいいんだけどな…。


「ありがとう、ごめん」

「いいんだけど…」

「本当にありがとう!明日ね」

遊園地の出口を出て、彼女は俺に再度感謝の言葉を残して。

また、走って去って行った。


「…はあ、なんかよくわかんね」


既にもう遥か遠くに見える藤井さんの背中を見つめながら俺は呟いた。