そしてどの位経ったのだろうか。


我に返った俺は手から伝わる冷たい温度を感じて、藤井さんの顔を見る。
唇は青くなっていて、明らかに体温が下がっている様だった。


腕時計に視線を落とすと、この家に来た時から一時間経っていた。


「…いつの間に」

誰に言うでもない独り事を言うと、俺は再度藤井さんを見る。
まだ眠っているのか、息はある。


俺は震えながら、その湯船に浸かっている腕に手を伸ばす。
生温かい水の中に俺は躊躇なく腕を入れた。


それから。
……その手首の傷口を指で開く。


また、血は滲み出た。


余程、深く切れたのだろうか。
それほど、鋭い剃刀に感心さえしてしまう。

一度、その手首を水から出すと俺はその流れる鮮血に口付けをした。
一瞬鼻を掠める鉄の香り。


それから唇についた血液を空いている指で拭う。

指についた赤を俺はそっと、藤井さんの唇につけた。
唇の形に沿って、ゆっくりと指を滑らす。