「まったく…油断ならない人ですね」
つられてアンも笑った。
「…やっと、笑ってくれましたね」
「え?」
王子は、柔らかい笑顔を浮かべる。
その笑顔を見た瞬間、アンは、自分の顔が熱くなるのを感じた。
「さ、さあ!休憩は終わりです!やりましょう王子!」
「え?もうですか?」
「ほら立って立って!」
それからアンは、自分の中の雑念を追い払うように一心不乱に王子に剣の指導をした。
その途中
「ロイ!」
「…カイン?」
カインがやって来た。
「ちょっといいか?」
「…今は、王子の稽古中だ」
「でも、王子は限界みたいだぞ?」
振り返ると、王子は地面に両手をついて肩で息をしていた。
「あちゃー…。王子、大丈夫ですか?」
「…」
王子は声が出ないのか、身振り手振りで大丈夫だと告げる。
大丈夫そうじゃなかった。
「…では今日はここまでにしましょうか。落ち着いたら、自室にお戻りください。私はカインと行きますが…」
「…かりました…」
かろうじて出した声には、まだ覇気がない。
アンは少し笑ってしまった。
「では、失礼します。で、なんだカイン」
「お前…俺にも敬語使ったらどうだよ。上司だぞ?」
「で、なんなんだ?」
「…ったく。まぁいいや、歩きながら」
アンとカインは肩を並べて歩んでいく。
その後ろ姿を見ながら、王子は
「…お似合い…だなぁ」
とつぶやいていた。
その自分のつぶやきに、わずかな胸の痛みを感じながら。


