「お忍びの経験値は高い方です」

「女王がそんなでいいのか…」

「女王…女王ですね、私は」

女王は真面目な顔になる。

「…先代の王が他界した時、アレンは王位を継承できる年齢ではなかったんです。そこで私がこの国を治める女王になろうと決心しました。

しかし私はカローレア王国に嫁いできた身、いわばよそ者です。反対する者も多かった。

先代の王の腹違いの弟…アレンの叔父も反対し、彼と私は対立しました。そして、剣で決着をつけることになったんです」

「…男と女なのに?その時点でかなり不利だろう」

「ええ。明らかに彼が有利…かと思われたんですが、戦ってみると案外弱くて…こてんぱんにしてやりました」

なんとなく想像がつく。

「…私は、先代が大切にしていたこの国を守りたかった。なのに私より弱い先代の弟に任せることなんてできませんでした。

私一人だけを愛してくれた夫の様に、この国を私も守りたかった。
だから女王となったんです。

女王になったことで行動に制限がかかりました。国を治めるということがどんなに難しいかも実感しました」


女王は静かに笑みを浮かべている。
アンは黙って話を聞いていた。


「アレンももう十六…。あの子は頭が良くて、試しに与えてみた政務も軽々とこなしました。王になる資質はあるんでしょう。

ただ、剣の腕が良くも悪くもない。それは王としては困ります。いざというとき、自衛できない王はただのお荷物です。

だから…アレンの剣を鍛えてやってくださいね」


女王はまっすぐアンを見つめた。アンは頭を掻いて

「…あんたは女王だ。頼まなくていい、命令しろ。それに仕事なんだから、やるさ。あんたを超えるくらいの腕に鍛えてやる」


アンがそう答えると女王は満面の笑みを浮かべた。