静まり返った病室で、主治医は静かに病名を告げた。

「脊髄小脳変性症という病気です」


そう言われても、ピンと来ませんでした。
どんな病気かもおろか、名前も聞いたことがなかったのです。


「どんな病気ですか?」


「とても珍しい病気です。運動機能を司る小脳という部分と脳からの指令を伝える脊髄という部分が病的に変性してしまいます。そのため、歩くこと、物を食べる事、喋る事などが徐々に困難になってきます。とても珍しいので、治療法は確立されていません」


主治医の言葉を聞いても、私には、大変な病気だという意識はありませんでした。
その時、母は一人で立っていたし、歩いていました。食事の準備もしていました。


母も、そんなにショツクを受けているようには見えず、『脊髄小脳変性症について』と書いてあるプリントを一枚もらって帰宅しました。