この場から今すぐに、逃げ出したい気持ちでいると、認めたくないとでも言う顔で私を見た。
「……」
「……」
「おい」
「はい…」
「ちょっとこい」
「……は?」
ガッと腕をつかんで、私を立たせぐいぐい引っ張っていく。
「あ、あぁのっ、ちょっとっ」
「……」
「ちょっとぉっ」
「ちょっと強引すぎるんじゃない?」
「たしかにな」
「それに…」
「ん?」
「奏の言ってること、一理ある気がするよ」
「……」
「あんなに堂々とした歌声だったからね。ほんとにあのこかな?って感じ」
「まぁ、たしかにな」
「……」
「でも俺は、あの歌声はあのことしか思えない」
「……なんで?」
「……さぁ、なんとなく」


