「一発殴っていい?」




抑揚のない口調

嘲笑の笑み。





「気が済むまで殴れ」





覚悟をして目をつむる。
すると、鋭い痛みが左頬に走った。

ずきずきと痛む…。
そして、優からの怒涛のような真実がほとばしり出た。






「中途半端なことしてんじゃねぇよ!絢の気持ち考えろ!」



「…ごめん」



「絢も陽もさ鈍感すぎ。ありえねぇ…。」






俺ってこんなに鈍かったっけ?
優の苦悩は計り知れない。

俺みたいな人間が、踏み入れてはいけなかった優の領域。






「まあ、心配するな。何もかもうまくいくから」



「どうしたらそうなるんだよ」



「親友と、好きな女の幸せ願うから…」



「から?」






氷を渡しながら、慰める口調で優は話してくれる。


愛がこんなに重いものだと思わなかった。
生きることがこんなに大変だと思わなかった。

死がこんなに怖いものだと思わなかった。



毎日、死と隣り合わせの俺は
最近



愛することの難しさや
生きることの大切さ
死の恐怖をようやくわかってきた気がする。






「絢を半分にするのはやめる」



「半分?」



「絢は引き裂かれてんだと思う。」



「俺と優に?」



「そ。だからさ、きっぱり諦めて絢の幸せだけを願ってる」






天井を見上げていた優の瞳。
その瞳には

優しさ
悲しみ
苦悩
愛しさが映し出されていた。






「陽から絢を奪うなんて無謀だしな」





“俺のほうが絢を愛してる”
そういっているように聞こえた。

諦めることがその証明なんだと。



俺ならそんなことできない。
だって俺は、自分の欲しいものを手にするために、




親友を傷つけている。