「失礼ね。それじゃ、私が負けるみたいじゃん。売られたけんかはもちろん買うわよ。そして勝ってみせる!」


変なところから変な方向へと話がずれていっている。


こういうところがいかにも恋愛に疎いというか全く経験がない証拠だ。


綺麗なのにもったいない。


「けんかって………」


深青は呆れてものも言えないらしい。


「そういうあんたはどうなのよ」


優奈はいきなり深青に話を振る。


「え? 私? どうって?」


「だから、高校では彼氏を作るとか……」


「うーん、ない! 興味ないし。それに………」


深青の返事に優奈はガックシと肩を落とす。


「中学の時も全くそういう話でなかったし、本当のところ深青は結構もてるんだからもったいないよ。初恋にとらわれないでさ」


「そう言う優奈だって。それに、私別に告白とかされたことないよ。だから優奈の気のせいだって」


深青は笑いながら否定する。


それもそのはず、深青に興味を持つ男はいつも隣にいる優奈の存在が怖くて近づくことができないのだ。


変に度胸のある男は生半可な気持ちだと電車の男のように優奈に蹴散らされてしまう。


だが、そんなこと深青が知るはずもなかった。




思い当たることが多々ある優奈はそれ以上は何も言わなかった。


というか、言えなかった。








「まあ、とにかく、明日のテストをがんばりますか」


優奈はするりと話題を変える。


それに乗せられるように深青も同じ話を覆すことはなかった。




2人は昇降口で靴を履き替え、親の待つ校門へと歩いて行った。