パチパチパチパチ。




後方から軽く気のない拍手が聞こえる。




深青は香織にかけようとしていた手を引っ込め、後方を振り返る。


そこには、予想していたが手を叩く湯川健児の姿があった。


「……湯川……っ!」


腹の底から沸き起こる怒りを抑えながら深青は呻くように湯川の名を口にした。







突然現れた湯川は砂川神社にいた者からの視線を一身に集めた。


そこには、憎しみ怒りが含まれていたのだが、湯川は満足そうに深青へと近づいていく。


すぐ傍に居た優奈たち3人には目もくれず、まるで眼中にないとでもいうように颯爽と向っていく。


「いやぁ、さすがだね。生物室で会った時から只者ではないと感じていたがこれほどとは。まさか、妖魔をこうも簡単に祓ってしまうとはね。予想以上の力に惚れ惚れしてしまうよ。香織ではなく君をスカウトすればよかった」


湯川は自分の置かれている立場をわかっていないのか淡々と語る。


その一言一言が深青たちの怒りを増長させていることにも気づかずに……。


「一条さんは?」


深青は湯川に顔が見えないように俯いて、呟いた。


「え? なに?」


湯川は問い返す。


深青はゆっくりと顔を上げ、とびっきりの笑顔を見せた。


笑顔だからこそ、その怒りが計り知れないものを含んでいるように見える。