香織は何も言わない。


いや、あまりの驚きに言えないのだろう。


表情は驚きを通り越して驚愕へと変わっていた。


「たぶん、自分でも気づかないうちに植えつけられたんだと思う。行方不明になっていた期間におそらく……。妖魔はただ力を貸してくれるわけじゃない。力を貸すには見返りが必要なの。……それが、宿主の命。あなた、力を使うたびにすごく疲れたりしなかった?」


香織はこくりとだけ頷く。


もう、目の焦点も合っていない状態だ。


「おそらく、植えつけたのは湯川。あいつは妖魔を呼び出し、何匹も飼っているのかもしれない。全ては憶測でしかないけど………」


床に座り込んでしまい、動こうともしない香織。


あまりの傷心ぶりに深青は同情を隠せない。


だが、その前にと……深青はひとさし指と中指をたて、小さな声で口だけを動かす。


そして…。




香織の背中から大きなカラスが現れる。


目は1つしかなく、赤黒い光を放っている。


カラスは目の前にいる深青を睨みつけ、大きな黒い翼を羽ばたかせようとする。


だが、その直前で深青は大きく叫ぶ。


「封……縛!」


羽ばたこうとしていたカラスは突然、光の玉に飲み込まれ、格子状になった光の線に閉じ込められ一瞬にして消えてしまう。




それを確認してから深青はフウと大きく息を吐いた。


そして、その場に座り込んでいる香織へと手をかけようとした。