(彼女の健気な気持ち。湯川が好きだからこその好意。それを、利用するなんて許せない)


深青の中で膨れ上がった怒りの渦は深青を取り巻くように異様な空気を醸し出していた。


怒りを抑えるために深青は大きく1つ深呼吸をする。


そして、もう1度、目の前にいる香織を見た。






 見据えられた香織は何もされていないが、圧倒され1歩後ずさる。


目をそらすこともできず、香織は深青を見つめたままの状態で固まっていた。




どれほどの時間が過ぎたのか、香織の顔に一筋の汗が流れ落ちた。


ひんやりと生温かいしずく。


その感触が固まっていた香織を現実へと引き戻した。


時間はほんの数秒のこと………。


だけど、その時間が香織には数分もたっているように感じた。


汗を拭いながら、香織は自分の顔がとても冷たいことに気づく。


そして、ものすごく気持ちの悪い汗を全体にかいていることをやっと自覚する。


この症状を香織は知っている。


一般的には、調子が悪い時などに起こることが多いが、緊張したり、ひやっとした時にも起こることがあるらしい。


後半はらしいと確定していないのは香織は今の今まではそんな時にこの症状が起こったことがないからだ。




――――冷や汗――――。




香織は今、この症状に陥っていた。




だが、呆然としてそのまま終わる……………そんなはずはなく、失態を犯してしまったのを恥じるように、今まで以上の強い目で深青を睨みつける。






火蓋は切って落とされた。




真の犯人が不在のまま…………。