「まあ、罠って言ったら罠かな」


「どういうこと? 深青」


「たぶんだけど、湯川はこのままの状態じゃ出てこないんじゃないかな」


「まあね。湯川が本当のところ犯人なのかもわからないし………」


「そう! だから、直接本人に会って話してくる。それで、何か反応があれば、当たりでしょ」


思いもかけない深青の作戦と言えない作戦に3人は身を乗り出す。


「それは危ないだろ! 奴が犯人ならいいが、何も関係なかったら、お前が睨まれるぞ」


「そうだよ、如月さん。危険だよ」


「それって、罠じゃないじゃん。直球勝負ってとこ?」


3人言うことはまちまちだが明らかに優奈だけは冷静だった。


深青の突拍子のない行動に慣れているからだろうか。


「大丈夫! 無関係だったら、記憶をちょちょいと消しちゃうから」


深青は軽く、とんでもないことを口走る。


その言葉に、大也とみゆきは固まる。


一方、優奈はポンと手を叩き、「その手があったか」と呟く。





さも当然のように言う深青と優奈に大也は待ったをかける。


「記憶を消すって、俺には聞こえたんだけど………。聞き間違いだよな?」


「ううん。本当だよ」


大也の問いに深青は首を振る。


「記憶を消すって、そんなことできるのか?」


明らかに不信感を込めた声を大也は深青に向ける。


その隣ではみゆきがコクコクと頷く。


「うん。ちょっとね。本当はしちゃいけないんだけど、事が事だからね。仕方ない」


「そっか………」


仕方がないとは思うが、やはり、大也にはついていけない話だと思う。


記憶を消すなどというそういうことが普通に話に出てくるなどありえない。




自分と深青の間に何かしらの距離があるような気がしてそれが、大也には寂しく感じられた。





 「なんだか、如月さんって無敵のような気がする」


隣ではみゆきがボソリと呟いた。


大也も内心ではそう思うが、あえて顔には出さなかった。